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「山本カントクとピンク映画の女神たち」山本晋也カントクの桃色青春伝

先月、オレの記念すべき監督第一作『狂い咲き』について語ったわけだけれど、実は、一番肝心なことを言い忘れてた。女優だよ。ピンク映画には、この愛すべき女たちがいなきゃ話にならない。しかも、時は1960年代半ば。いまみたいにAVや、ネットに若い女の裸が溢れてる時代じゃない。嫁入り前の娘が人前で肌を晒した日にゃ親に勘当される、道を歩けば後ろ指さされるって頃だ。今回はそんなご時世に、寂しい男たちのために文字どおり「一肌脱いで」くれた、そんな女神たちについて語ってみようか。

無名なれど心に残る忘れじの女優たち

オレは松井康子の他にも谷ナオミに白川和子、宮下順子に真湖道代といった、いわば昭和の名ピンク女優たちと仕事をしてきた。
けれど彼女たちだけじゃなく、脇役だったり1本2本で消えていった無名の女優たちも、それぞれが思い出深い。たとえば新人で、ベッドシーンを含めたすべての出番が終わったとき、「監督、勉強になりました。ありがとうございました」と、三つ指突かんばかりにお礼を言った娘がいたよ。

「何が勉強だよ、バカ」って返したら、「だって私、セックスって、こんな素敵なことだって知らなかったもの」って。
別に、いまのAVみたいに本番してるわけじゃないんだぜ。でも、当時の女の子たちは、特に恋人も若かった場合、きっと実に淡泊な行為だけで終わってたんだな。
ところが、ピンクのベッドシーンは舐めるわ、しゃぶるわ、吸い合うわ、愛の言葉は囁き合うわと、挿入しないぶんだけ濃厚だ。つまり、彼女はセックスとは入れて出すだけじゃないということを、そこで身をもって知ったんだろう。

本番してるわけじゃないといえば、こんなこともあった。撮影を終え、撤収してロケバスで帰る途中、渋谷の道玄坂を登りきったあたりだよ、ラブホテル街だ。すると、一軒のホテルから一人の女が出てきた。
スタッフが「あれ、今日出演してた新人女優じゃないスか?」って言う。見ると、確かにそうだ。しかも続いて男が出てくると、そいつは、さっきまで彼女とベッドシーンを演じてた男優じゃないか!

あいつら、いつの間にデキてやがったんだ? 車を停めて、からかってやろうとスタッフ連中が言うのを、「お前らね、そういうのを不粋と言うんだよ」なんて止めたものの、オレも正直、気になっちゃって、次の撮影のときに尋ねた。いや、真相を聞きたいがゆえに、その女優をキャスティングしたんだな。「どうなんだ、お前、あの役者に惚れたのか?」と。そうしたら彼女は、なんとも色っぽい眼で、こう言ったもんだ。「だって、あと引いちゃうもの……」

いい言葉だったね。あと引いちゃう……例えようがないほど性というものを表現してるじゃないか? 映画の撮影とはいえ、そこには肌と肌を合わせた男女だけが感じ合う何かがあったんだな。つまり彼女たちピンク映画の女優というのは、セックス、いや人間てヤツの本質を、頭じゃなくて身をもって知ってる。だから、大らかなんだよ。

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